当事務所の弁護士が過去に扱った事例を、弁護活動の内容と結果は変えずに、事案を一部改変してご紹介します。
刑罰より治療を優先する判決
長年、精神疾患を患っていたAさんは、夫との離婚問題に悩んだ末、無理心中を決意し、寝ている子どもを包丁で突き刺したところを取り押さえられ、殺人未遂で起訴されました。子どもは、大怪我をしたものの一命はとりとめました。しかし、夫も子どもも、Aさんに強い被害感情を持っており、Aさんは事件後、離婚して夫や子どもと離れなければならなくなりました。
他方、起訴前に検察官が実施していた精神鑑定の結果、Aさんは、その病気の影響で、事件当時、物事の善悪を判断する能力又はその判断に従ってコントロールする能力が、著しく弱まっていた「心神耗弱」の状態にあったことがわかりました。
そこで、弁護人は、裁判員裁判で、事件には、Aさんの病気が大きく影響しており、この病気の影響についてはAさんを責めることはできないから、Aさんには刑罰ではなく、治療が優先されるべきだと主張して執行猶予付きの判決を求めました。
裁判官と裁判員はこの主張を認めてAさんに執行猶予付きの判決を下しました。
判決後、離婚により戻る家がなくなってしまったAさんは、予め弁護人が頼んでおいた、かつてのAさんの通院先である病院に直行して入院をすることになりました。その後、Aさんは検察官が申し立てた医療観察という手続の結果、あらためて国が指定した入院先で専門的な入院治療を受けることになりました。