刑事事件の弁護取調べではどうするか


取調べへの対応と事実の調査が重要

「痴漢について全くに身に覚えがない。」「店の前で友人と出会ったが、その後、友人が万引きをするとは知らなかった。見張りをしていたわけではない。」「ナイフで故意に刺したのではなく、刺さってしまっただけだ。」「相手が殴りかかって来たので、とっさに突き飛ばしただけで正当防衛だ。」など、逮捕された容疑(被疑事実)が、自分の主張と異なっていることは珍しくありません。

このような事件で逮捕・勾留された時には、大きくわけて2つのことが重要です。

1つめは、「取調べにどう対応するか」ということです。

逮捕された被疑者は、警察や検察庁で取調べを受けることになります。取調べで被疑者が話した内容は、警察官や検察官によって、例えば「私は、その日、○○にいました。」「それから、私は○○したのです。」という一人称スタイルの書類にまとめられ、内容を読み聞かされた上で、署名と指印をさせられます。これが、いわゆる「供述調書」です。また、供述調書以外に、A4サイズの白紙の紙などに、被疑者自身の自筆で、自分の行動や言い分を書かされることもあり、これを「上申書」などと呼んでいます。

被疑者が、このような書面の作成に応じてしまうと場合、後日、その内容と異なることを主張しても、信じてもらうことが難しくなってしまいます。したがって、内容に間違いがあるのにも関わらず、そのような書面の作成には絶対に応じるべきではありません。特に、本当は罪を犯していないのにも関わらず、罪を犯したことを認める調書(「自白調書」などと言います)の作成に応じてしまうことは後に致命的な問題となりかねません。

では、内容に間違いないと思った場合には、こうした供述調書や上申書の作成に応じても良いのかというと、そうではありません。人間の記憶は曖昧なものであり完璧なことなどありえません。取調べの時には間違いないと思ったことでも、後から冷静に考えてみると、事実と異なっていたということがありえます。その場合、既に作成してしまった供述調書や上申書が、後で「足かせ」になってしまうかもしれません。

そもそも、犯罪の疑いをかけられて逮捕・勾留されたからといって、供述調書や上申書の作成に応じる義務は一切ありません。断ったとしても何のペナルティも無いのです。

さらにいえば、犯罪の疑いをかけられた人には「黙秘権」が憲法で保障されていますから、そもそも取調べに対して「何も話さない」とか「『自分はやっていない』ということだけを述べて、あとは一切話さない」という方針をとることも十分にありえます。特に、近年は、取調べの可視化が進み、事実に争いのある事件や重大事件では、逮捕直後の取調べから、その様子が録音・録画されることも多くなりました。この取り調べの録音・録画自体は、自白の強要などの違法な取調べを防ぐためには有効ですが、反面、そこで被疑者が話をしたことは、そのまま証拠として後日の裁判で使われるリスクもあります。つまり、その取調べで、何か思い違いをして事実と異なることを話してしまうと、たとえ供述調書等は作成していなくても、その取調べの様子を録音録画した映像そのものが証拠として、裁判で用いられてしまう可能性があります。

そこで、事実に争いのある事件について逮捕・勾留された時は「供述調書や上申書の作成には、安易に応じるべきではない」ことはもちろんのこと、事案や状況によっては、取調べで「黙秘する」ことも重要な選択肢となります。

しかし、被疑者本人が、どのような方針を選択するべきかを的確に判断することは困難です。

また、いざ取調べの場面で黙秘をしたり、供述調書の作成を拒否したりしようとしても、警察官や検察官は、繰り返し取り調べをおこない、何度も供述調書等の作成に応じるように求めてくるはずです。そうなると「本当に、自分の言い分を言わなくて良いのだろうか。」「書類に残してもらわなくて良いのだろうか。」と不安になる可能性があります。ところが、そのような不安にかられて、黙秘ができなかったり、供述調書等の作成に応じたりしてしまえば、後で悔やむことにもなりかねません。

このような時、刑事事件の知識や経験が豊富な弁護人であれば、連日の取調べに対応するために、頻繁に接見し、取調べの状況を踏まえて、被疑者の方が自分の身を守るためにどうしたらよいのかを、その都度、的確にアドバイスすることができます。また、黙秘権を侵害したり、調書への署名指印を強要したりする取調べには抗議をして、そのようなことが繰り返されないようにします。

事実関係に争いのある事件で、もう1つ重要なことは「事実の調査」です。

たとえば、全く身に覚えの事件で捕まってしまった場合には、その事件があった日に、どこで何をしていたのかが大事になることがあります。いわゆる「アリバイ」がある、つまり事件の遭った日時は別の場所にいたということになれば、それによって犯罪の疑いが晴れることになるからです。

警察や検察官は、事件についての捜査をしますが、必ずしも被疑者にとって有利な証拠を集めてきてくれるとは限りません。もちろん、取調べで「事件があった日は、友達の家に遊びに行っていたはずだ。」と話せば、警察は、その友達に話を聞きにいくかもしれません。しかし、もし、その友達の記憶が曖昧で当日のことを覚えていなかったり、思い違いをしていたりした場合には、そのアリバイの話は嘘だ、と結論付けられてしまい、アリバイについてそれ以上の捜査はしてもらえず、かえって「嘘のアリバイを述べたのは真犯人だからだ。」とすら言われかねません。

そのようなことにならないためには、自分に有利になるかもしれない事実の収拾を捜査機関に委ねるのではなく、積極的に、被疑者自身の側で、事実の調査活動をする必要があります。もちろん、逮捕・勾留されている本人には、そのような調査をする自由はありません。また、専門的な知識や経験を持たない家族や知人にも難しいでしょう。また、これらの人と被疑者の面会には、警察官等が立ち会いますから、そこでアリバイなど被疑者に有利になる可能性のある事実の調査について話をすること自体、避けたほうが良いと思われます。

この点、刑事事件の知識や経験が豊富な弁護人であれば、警察官等の立ち会い無しに、被疑者と2人きりで接見をして、被疑者からアリバイに関する事実を詳しく聞き取り、その裏付けをするための調査を独自におこなうことができます。残念ながら弁護人には、警察等のような強制的な捜査権限はありませんが、例えば関係者に会って話を聞き、それを録音したり、関係するメールを見せてもらってその写真をとらせてもらったり、近隣の店舗の防犯カメラ映像を確認させてもらい、その保管をお願いしたりするといったように、早い段階で様々な調査と証拠の保全をすることが考えられます。

このように、事実を争う事件では、弁護人の協力を得て、「取調べへの対応」と「事実の調査」をおこなうことが、不当な起訴を防いで早期の釈放を実現したり、起訴された場合に無罪の判決を得たりするために重要となりますので、お早めに当事務所までご相談ください。

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