一貫性のある機動的な弁護を重視
法律事務所は弁護士が1人でもいれば開設することができます。
そのため,弁護士が1人だけという事務所はたくさん存在します。
他方で,所属弁護士の人数に上限はありませんから,東京や大阪などの大都市では弁護士が何十人,何百人も所属している大きな事務所も存在します。
刑事弁護を多く手がけているとされる法律事務所の中にも,弁護士が1人だけの事務所もあれば,多くの弁護士が所属している事務所もあります。
では「弁護士の人数」は,刑事事件や少年事件を依頼する上で,どのような意味を持つでしょうか?
弁護士が手がける事件の中には様々なものがあります。
たとえば大企業の複雑な訴訟や買収案件,倒産事件などは,到底弁護士1人の手に負えるものではなく,複数の弁護士でチームを組み,手分けして作業に当たる必要があります。東京などの企業法務や倒産事件を手がける法律事務所に,多くの人数の弁護士が所属しているのはそのためです。
また,個人が依頼者の事件でも,たとえば消費者事件のように,同じ被害にあった依頼者が大勢で集まり,同じ相手に訴訟を起こすような場合にも,依頼者の人数に応じて多くの弁護士が作業を分担する必要があります。
しかし,刑事事件・少年事件については,そのような「分業」になじまない性質があります。もし,依頼者に面会に行く弁護士と,証拠を検討する弁護士と,被害者と示談交渉をする弁護士と,裁判所に行く弁護士が,全部別々の弁護士だとしたら良い解決が得られなさそうなことは,何となく想像がつくのではないでしょうか?
刑事事件・少年事件が大人数の弁護士による分業になじまない理由はいくつかありますが,大きな理由としては(1)事件ごとの個性が強いこと,(2)短期間で集中的な作業が必要になること,(3)依頼者と弁護士の信頼関係が重要であることが挙げられます。
刑事事件・少年事件では,一見,似てみえる事件でも,同じ事件はどれ1つとしてありません。事件の背景事情や依頼者や関係者の人柄,生活状況などは千差万別です。そして,刑事事件や少年事件では,それこそが,その事件における最善の方針が何かという判断を大きく左右します。事件の個性に合わせた弁護方針を,大人数の弁護士が正確に共有しあうことは困難であり,そのような状態での分業は弁護活動の一貫性を損なうことになりかねません。
また,刑事事件・少年事件は,時として10日や20日間,場合によっては数日のうちに重大な決定がなされるという「短期決戦」も少なくありません。そのような場合に複数の弁護士で対応することは有効ですが,あまりに大人数での活動は,情報の共有作業に多くの時間を取られ,かえって活動のスピードが損なわれてしまいます。
さらに,刑事事件・少年事件の背景には,依頼者の方やその家族にとって「人に知られたくない事情」が隠されていることも少なくありません。そのような事情は,たとえ守秘義務があるといっても,心から信頼を寄せた弁護士にしか打ち明けたくないのが人情です。しかし,そうした「秘密」を打ち明けていただくことこそが,事件を良い方向へ導く鍵になることも多いのが事実です。そのためには,依頼者や家族の前に多くの弁護士が代わる代わる登場するのではなく,特定の弁護士が責任を持って対応して,信頼を寄せてもらうことが欠かせません。
もちろん,刑事事件・少年事件以外の分野の仕事にも,上記(1)から(3)のような特徴は多かれ少なかれあります。しかし,刑事弁護・少年事件では,これらが特に際立っており,事件ごとに,いわば「オーダーメード」の一貫性ある弁護活動をする必要性が非常に高いために,事務所の人数がどうであれ,実際に弁護を担当する際には少人数による機動的な弁護活動が望ましいといえます。
具体的な人数としては,「多数の罪状について起訴され,その大部分について事実関係を争う」という例外的な場合を除き,通常の事件では,弁護士は1人から,せいぜい3人もいれば,一貫性のある機動的な弁護活動に必要かつ十分と考えています。現に,当事務所の弁護士が,過去に無罪判決を得た事件や執行猶予付き判決を受けた重大事件における弁護士の人数は,いずれも1人から3人の範囲におさまっています。
当事務所には,2018年9月現在,浦和本部に2名,川越支部に1名,大泉支部に1名の弁護士が所属しており,刑事事件・少年事件では,事件の内容に応じて所内の弁護士でチームを組んだり,事務所外の弁護士と共同受任したりして,一貫性のある機動的な弁護活動を実践しています。